委員会
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に対する ECMO管理中の感染管理について(4/10 UP)
会員各位
一般社団法人日本体外循環技術医学会
学術委員会 補助循環部会
COVID-19は国内でも感染経路が明確でない感染症例が次々と報告されるようになりました。そのため集中治療を含めた積極的な治療を要する症例が増加する可能性が高いと考えられています。
重症呼吸不全に陥った症例では、ECMOの適応となる場合がありますが、通常のECMO管理に併せて、感染症に対する知識と管理技術が必要とされますので会員の皆様と情報共有させて頂く機会を設けさせて頂きました。
なお、本情報はJaSECT会員の施設にて、場所や医療資器材、様々な情報が不足する中での経験をご紹介させていただきました。これらの報告についてはエビデンスが無いため、各施設での規定やマニュアルを遵守していただき、ECMO経験のない施設や既にECMO実施施設でのECMO対応に役立てていただければ幸いです。
JaSECT学術委員会補助循環部会では、ECMO治療に携わる皆さまの不安を取り除きながら、安心しすぎない、実用性のある情報を発信してまいります。
《 ECMO管理に伴う留意点 》
ECMOを開始すると人工肺から結露水が生じ、管理が長期化すると膜から血漿リークが生じてきます。その漏れ出た血漿に感染力を持つウィルスが存在するのか、感染力のない状態なのかは解明されていません。そのためウィルス感染症患者のECMO管理を行う際は標準予防策に加え、飛沫予防策、接触予防策を実践した上で業務に従事する必要があります。
具体的には、人工肺呼気ガスポート付近の結露水の有無などを目視確認する行為は行わないでください。
参考文献など
一般社団法人 日本環境感染学会
医療機関における新型コロナウィルス感染症への対応ガイド
2020年3月10日 第2版改訂版(ver.2.1)
会員施設からの報告
〜ICU管理について〜
A病院からの報告
1.感染対策
COVID-19の患者は陰圧のかかる個室で管理し、エアロゾル対策としてN-95マスクを利用しています。その他は眼・鼻・口を覆う個人防護具、ガウン、キャップ、手袋を装着しています。手袋は2枚重ねで対応しています。
2.ECMO管理
● ガス交換能の評価:陰圧室はガラス張りのため、体外循環用血液ガス分析装置(CDI)とECMO装置の設定、熱交換器の設定を部屋の外から確認しています。CDIの校正はCEが1日1回入室し、採血と装置の校正を行います。
● 抗凝固管理:ACTは、APTTと併用とし、必要最小限の回数としています。
● 経時記録も部屋の外で行います。
● その他の業務は部屋の外で行います。
3.人員体制
● 隔離室入室時は、2人一組となり、1名が外から作業者の行動を確認し、感染管理上危険な場合には声をかけます。
4. 室内の作業・管理方法
● 入室時には手袋とガウンを着用し、手袋とガウンをテープで固定し、その上に2枚目の手袋を付けます。採血など体液で汚染される作業を行う場合は、更に1枚手袋を重ねて、汚染後は1枚のみ破棄します。
● 物品を部屋の中に入れる場合には、監視のCEが中のCEに渡し、部屋の出入りは最小限にしています。
● 人工肺の結露水や血漿リークした液体も含めて、隔離室内の物はすべて感染扱いとします。
B病院からの報告
1.感染対策
A病院と同様の対策を行っています。
2.ECMO管理
● ガス交換能の評価:陰圧室はガラス張りのため、CDIを部屋の外から確認しています。採血は看護師が実施します。CDIを利用することで看護師の作業が軽減できています。CDIの校正はCEが1日1回入室し、採血と装置の校正を行います。CRRT施行中は入室回数を減らす目的で回路交換の際に入室し、CDIを校正し、ECMO稼働点検を行います。
● 抗凝固管理:ACTは、APTTと併用とし、必要最小限の回数としています。
● 経時記録も部屋の外で行います。
● その他の業務は部屋の外で行います。
3.人員体制
● A病院と同様の体制で行っています。採血・ACT測定の手伝いを行います。
4. 室内の作業方法
● A病院と同様の体制で行っています。
C病院からの報告
1.感染対策
A病院と同様の対策を行っています。
2.ECMO管理
● 通常1日3回の採血ですが、COVID-19症例でCDIが使用できた場合は1日1回だけ採血を行います。CDIの数値に異常や疑問があれば、その都度採血を追加しています。
● ACTとAPTT等の凝固系検査は看護師により定時の採血と合わせて実施します。
4. 室内の作業方法
● 人工肺からの血漿リークや結露水、CRRTの排液も体液同様の扱いとして閉鎖回路で回収し、固めて廃棄します。
D病院からの報告
2.ECMO管理
● 陰圧個室がガラス貼りではないため、外部から操作できるカメラを取り付け
ナースステーションからECMO装置のパネルを観察します。
● ECMOのモニタリングとしては、回路内圧とSvO2を表示します。
● ECMO装置にはCDIを搭載していません。1日1回の採血にて血ガス、ACT、APTTを確認しています。
● 結露対策としては、O2フラッシュを行っています。オートフラッシュ機能を持つMERA社のUNIMOを優先的に使用しています。但し、装置の台数にも限りがありますので、不足する場合には温風を用いた結論対策を施す必要があるかと思っております。
E病院からの報告
2.ECMO管理
●組み立て充填はクリーン区域で行い、セットアップできたら装置を汚染区域(病室)に入れています。
● 手順はV側に太め(25Fr)のカニューレを挿入する以外はPCPSと同じです。ECMOスタート時に一度5L/minの流量が出る位置にあるかを確認します。管理は3-4L/minで行っています。導入時は臨床工学技士1名と医師2名、看護師1,2名で行います。
3.人員体制
● 基本的に臨床工学技士は汚染区域に入らず、点検は看護師がしてくれています。看護師が協力的で、普段から看護師も点検を実施してくれます。
● 血栓の確認は通常6時間ごとに臨床工学技士が行いますが、これも看護師が行ってくれています。ただ一日一回は臨床工学技士が全体の確認のために汚染区域に入っています。
● 日頃の看護師や医師との関係が重要だと感じています。
〜使用後の装置の清掃について〜
A病院からの報告
● ECMO離脱後は、可能な限り室内でアルコールによる清掃消毒のみを行って、退室までは室内に保管しました。
● 患者退室後は、アルコールによる清掃消毒を行い、次にルビスタをトレシー(クリーニングクロス)に含ませ清掃を行いました。
B病院からの報告
● ECMO修了後は、可能な限り室内でアルコールによる清掃消毒のみを行って、準汚染区域で48時間以上エアレーションを行います。
● その後、MEセンターに回収し、ルビスタにて清掃を行い、使用後の冷温水槽の循環水の交換と防塵用フィルタの清掃を行います。
C病院からの報告
個室から患者が退室した後に、使用した機器も病室内に置いた状態で紫外線照射機による紫外線照射を行ったのち、アルコール消毒清掃を行っています.
〜その他、人工呼吸器・CRRTについて〜
A病院からの報告
● 人工呼吸器は、病院長の了解をいただき、添付文書上の期限を過ぎても呼吸器回路交換は実施せず、PCR陰性の確認後室内の医療機器をすべて交換しました。
B病院からの報告
● 人工呼吸器は、吸気および呼気フィルター、回路はディスポーザブル品を使用し、本体に関しては病院長の了解をいただき、添付文書上の期限を過ぎても呼吸器回路交換は実施せず、呼気フィルタや人工鼻は添付文書どおりの期限にて交換します。回路の脱着が必要な時(人工鼻や呼気フィルタの交換時)のエアロゾル対策としては、換気停止もしくは電源OFFとしています。
● 人工呼吸器使用後は、準汚染区域で48時間以上エアレーションを行います。
● CRRTの廃液は、個人用透析液のポリ容器で固めて廃棄しています。感染症指定病棟では廃液も処理されていますが、処理能力も考える必要があるようです。ただし、院内の感染管理課から保健所に、透析用排水のみICU等の排水管に流して良いかを確認し、了解を得られましたので次回より要検討項目となっています。
C病院からの報告
● 人工呼吸器については定時の使用中点検は行わず,トラブル発生時のみ対応します。
● 人工鼻についてはメーカー推奨の24時間交換とし、さらに吸気呼気のバクテリアフィルタを使用し、加温加湿器使用時は回路に破損・汚染が認められない場合は交換を行いません。
Q&A
Q1 結露水の飛沫を拡散させない工夫はありますか?
A1 F病院では、人工肺のガス排気口を包むようにビニール袋(密閉しない)を装着しています。
A2 E病院では、結露水はジップロックで受けています。袋を落としてこぼした経験があるので、ジップロックには液体を固める高分子剤(市販の物)を入れて漏れた液を固形にしています。
A3 E病院では、ガスフラッシュを行うと飛散させる危険があるので、ガスフラッシュは禁止しています。使用している人工肺はテルモLX肺で、普段からガスフラッシュは行っていません。添付文書でもガス交換能が低下した場合だけガスフラッシュを試すことが紹介されています。
Q2 清掃作業を含む感染対策は自施設の感染管理方法で良いですか?
A はい、勤務先の感染管理方法を行ってください。今回の情報は勤務先で管理方法を検討される際の参考にしてください。
Q3 エマージェンシーキット、ハンドクランクは個室内に持ち込まれていますか?
A C病院では、準汚染区域に保管しています。
Q4 ECMO管理の担当者は限定されましたか?
A病院では可能な限り限定いたしました。隔離室外の監視者の方が室内対応者より上位者(上司、先輩)となるように配慮しました。